歯周病が全身疾患に及ぼす影響についてはすでにご存じの方も多いと思いますが、研究は日進月歩で今では106の全身疾患が歯周病と関係していると言われています。リウマチもその一つで、20年ほど前にリウマチ患者で歯周病にかかっている人の割合が高いことが初めて報告され、その後、米スタンフォード大学の研究チームによって歯周病によりリウマチの炎症が活性化されることが発表されると歯周病とリウマチとの関係が決定的となりました。
リウマチは免疫の異常により関節の滑膜に炎症が起こり、関節の痛みや腫れが生じる自己免疫疾患で進行すると関節の変形や機能障害を来たします。日本国内で患者数は 82.5 万人と推定され、40〜60 歳台における発症が多く、女性の患者数は男性の約3.2倍といわれています。
歯周病菌の中でもとくにリウマチに関係がしているのはジンジバリス菌(P.g菌)で、このP.g菌はシトルリン化といって周囲のたんぱく質の形を変えてしまう性質があります。その形が変わってしまったタンパク質を生体側では異物とみなして抗CCP抗体という自己抗体を作り排除しようとします。関節リウマチの患者の約8割の血液中にこの抗CCP抗体が検出されることから歯周病とリウマチは一見違う病気に見えて、実は非常によく似た性格を持っているということが示唆されていますが、歯周病によって生み出された抗CCP抗体が血流にのって体内を巡り、関節の滑膜で暴れだし免疫バランスが破綻してリウマチの発症につながるのではないかと考えられています。
実際に歯周病を放置するとリウマチの症状が悪化することが明らかになっていることから、歯周治療も並行して進めることが重要であるとされ、歯のクリーニングや歯みがき指導がリウマチの辛い症状の軽減に高い効果をあげています。
これらのことから日々の口腔ケアを入念に行うことがリウマチ予防も含め、全身の健康維持にいかに重要なことであるかがわかります。とくにリウマチの患者さんは歯周病が進行しやすく、重症化しやすい傾向にあるので歯科医院での年3~4回の定期検診とクリーニング(PMTC)によって歯周病の予防処置や治療を受けることをおすすめします。
就寝時の歯ぎしりはギリギリと耳ざわりな音がしますが、このときの噛みしめる力は50~100kgを超えるといわれています。食事の時の咬む力は数kgから30kg程度ですから、いかに異常な力であるかがわかります。睡眠中は無意識で抑制が効かないためですが、上下の歯が過剰な力でこすれ合うため歯が削れたり、破砕したりひびが入ったりするだけでなく歯肉への負担から歯周病を引き起こしたり、顎関節症の発症にもつながります。さらには頭痛、肩こり、腰痛、めまいなどを招くケースもあり、周囲の人も迷惑ですが、本人が一番たいへんな被害を被っているといえそうです。
歯ぎしりの原因はさまざまに考えられていますが、不正咬合など噛み合わせが悪い場合のほか、精神的なストレスといわれています。噛みしめる行為にはストレスを緩和する効果があるとされており、脳が感じたストレスを歯ぎしりや噛みしめによって解消しようとしているのではないかということです。
最新の研究で、ある栄養素と歯ぎしりとの意外な関係が発見されて話題をよんでします。今年の5月に岡山大学で発表された研究報告(岡山大学とノートルダム清心女子大学の研究グループによる報告)で、学生を対象にした調査で睡眠中の歯ぎしりをしている学生としていない学生で栄養摂取量を比較したところ、食物繊維摂取量が少ないほど睡眠中の歯ぎしりを起こしやすい傾向であることがわかったのです。実際に食物繊維摂取量が多い上位25%と下位25%を比較したところ、睡眠中に歯ぎしりをする学生はしない学生に比べ、有意に食物摂取量が少ないことが確認されました。
普段から食物繊維を多くとっている学生は歯ぎしりを起こしにくいということから、睡眠中の歯ぎしりの改善に食物繊維摂取の重要性がクローズアップされたと同研究グループはその成果を述べています。
これまでの歯ぎしりの治療としては矯正治療によって噛み合わせをよくするほか、寝ている時にマウスピースを装着して力のかかり方をコントロールする方法などがあげられますが、新たに方法として食物繊維がなんらかのかたちで活かされる可能性もあり、今後の研究への期待が膨らみます。
舌の表面が白くなっていて気になっている方も多いかもしれません。これは“舌苔”といって細菌や食べカス、口腔内の上皮細胞の剥がれ落ちたものなどが付着して舌表面が苔が生えたように白く変色して見えるものです。
歯と同様に舌も清掃しないと食べカスや細菌がたまってしまいますが、口腔内が乾燥することも舌苔の原因となります。口呼吸などによって口内が乾燥にさらされると唾液による自浄作用が低下すると同時に、舌の表面に付着した舌苔が乾いて落ちにくくなります。マスク着用時など口呼吸をされている方も増えているので、鼻呼吸に切り替えるようにしましょう。
さらに注目されるのは口腔内での舌の位置が関係していることです。普段、口を閉じた状態での正しい舌の位置は舌先を前歯の付け根の上に置き、舌全体を吸盤のように口蓋にくっつけるイメージです。舌全体が上あごに接していることで、上あごの粘膜との摩擦で舌の表面の汚れが自然に落ちるのです。しかし、舌先が下の前歯あたりについていて舌の全体の位置が低い低位舌(ていいぜつ)になると、上あごに触れ合わないために舌の汚れが付着したままとなり舌苔がたまりやすいのです。
比較的年齢の若い方では口呼吸や低位舌が原因になることが多く、ご高齢の方は唾液分泌不全や舌の運動機能の低下が原因になることが多いようです。
舌苔の清掃方法は基本的にはブラッシングです。市販されている舌専用のブラシを使用して舌の根元(口の奥)から手前(前歯の方向)に向かって3回程度、優しく撫でるようにします。舌の表面はデリケートなので力を入れすぎて傷つけないように注意してください。舌苔がたくさん付いていても1回で取り除こうとせず、日数をかけて少しずつ舌苔を取り除くようにします。
舌苔は病気ではありませんが口臭の6割は舌苔から発生するといわれるほか、感染症や誤嚥性肺炎を起こすなど二次的な弊害があるので歯ブラシの習慣同様、定期的に汚れを落とすことをおすすめします。ただし、舌の表面は味蕾という味覚を感じる器官もあり傷つきやすいため、過度なケアは逆効果です。1日1回にとどめましょう。
歯周病は口腔内だけの病気に止まらず、歯周病が悪化すると糖尿病、高血圧、脳血管疾患、心疾患などのリスクが高くなることはよく知られるところとなりました。これは歯周病菌が血液に入り込み、全身を駆け巡ることでさまざまな病気のリスクを高めるためです。
口腔内の歯周病菌がこうした全身疾患に関与しているということは、にわかには信じがたいことですが、心疾患の患者の動脈硬化を起こしている部分から歯周病菌が多数発見されたことがきっかけとなり研究が進みました。
歯周病菌の代表的なものがポルフィロモナス・ジンジバリス菌ですが、このジンジバリス菌はほかの細胞内に入り込むことができるため動脈の細胞内に入り込んで慢性炎症を起こし、炎症部分から動脈硬化が始まり狭心症や心筋梗塞を誘発するのです。
ジンジバリス菌が血液脳関門(脳の血管と脳の組織との物質の行き来を制限する器官)を突破し、脳の中に入り込むとアミロイドβ(蓄積することで認知症の原因となる脳内でつくられるタンパク質)の沈着を促し、アルツハイマー型認知症のリスクを上げます。実際にアルツハイマー型認知症で亡くなった10人中4人の脳からジンジバリス菌が産生する毒素が検出され、さらには記憶に深く関わる海馬からジンジバリス菌の毒素が発見されたという研究報告があります。
最近では歯周病がすべてのがんの発症リスクを上げることが指摘されています。これまではがんの発症は遺伝子の突然変異が原因だと考えられてきましたが、慢性炎症によってがんの抑制遺伝子が働かなくなることで細胞ががん化することが分かってきました。歯周病菌が血液によって全身の臓器に運ばれそこで慢性炎症を起こすことでさまざまな臓器でのがんのリスクを上げると考えられているのです。膵臓がんについていえば、ジンジバリス菌の保菌者は発症リスクが1.6倍高くなり、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス菌という別の菌の保菌者では2.2倍高くなると報告されています。
歯周病は歯や歯の土台にダメージを与え、日本人が歯を失う2大原因の一つともなっていますが、歯周病の予防や治療により、がんや認知症など治療が難しい重大病のリスクを減らすことができるのです。自宅での口腔ケアと定期的な歯科医師による健診とクリーニングで全身の健康維持につなげたいものです。
歯と歯肉の主なトラブルといえば、むし歯や歯周病ですがそれ以外に間違った歯磨きで歯や歯肉を傷つけてしまうことがあるので要注意です。
「しっかり汚れを落とすためには力を入れてゴシゴシと」「歯ブラシは硬いほうが汚れを落としやすい」という誤った認識があるのかもしれませんが、適正な力の入れ加減は歯の面のブラシを当てたときに広がらない程度の力です。それ以上の力を加えても毛先が広がり清掃効果を下げるばかり、歯や歯肉のトラブルのもとになってしまうのです。
たとえば歯肉退縮などもそうですが、ブラッシングの際の力の入れ過ぎや乱暴な磨き方、毛先の広がった歯ブラシの使用等が原因となります。そのほか歯肉にVまたはU字型の裂け目(クレフトといいます)ができてしまったり、フェストゥーンといって歯肉の縁がロール状に肥厚するなど歯肉の形態異常を起こしたりします。歯そのものが削れてしまう症例としては楔状(くさび状)欠損があげられます。歯肉と歯の境目にくさびを打ち込んだような三角形の凹みができるのでこう呼ばれますが、原因は強すぎるブラッシング圧や粒子の大きい歯磨き剤の使用などです。最近は歯ぎしりや食いしばりなど強い噛み合わせによって歯茎の境目に負担がかかることも原因の一つとされています。
楔状欠損は熱心に口腔ケアをされている方にみられるのも特徴的ですが、削れた部分は歯垢(プラーク)がたまってむし歯や歯周病になるリスクが高く、知覚過敏の原因ともなります。欠損した部位が変色して見た目にもよくないので早めの治療をおすすめします。治療法はコンポジットレジンと呼ばれるプラスチックを詰めるのが一般的です。
正しい歯磨きは“正しい歯ブラシの持ち方”をすることが第一歩です。「ペングリップ」と呼ばれる鉛筆を持つ持ち方が推奨されおり、持ち方を変えるだけで自然と強い力が入りにくくなるので歯や歯肉を傷つけなくなります。1本~2本ずつ磨いていく気持ちで歯ブラシを1~2㎜程度の幅で小刻みに動かします。こうすることでプラークが取れやすく、歯ブラシもすぐ広がらずに清掃効果も落ちません。
歯ブラシの交換時期について迷われる方も多いかと思いますが、取り替えるだけで歯磨きの効率がとても上がるので毎月の交換を目安としてください。正しい磨き方をつねに再確認しながら日々のケアを行いたいものです。
医院案内
治療案内
24時間受付メールで診察予約
電話にて診察予約