
このところのインフルエンザ流行の急拡大に徹底した感染対策が求められていますが、インフルエンザの意外な予防法が注目を集めています。ことの発端は2025年1月に日本大学歯学部の研究チームによって、「インフルエンザ」と「歯周病」という2つの疾患を関連付ける論文が発表されたことによります。
我々がインフルエンザウイルスに感染する場合、喉の粘膜などの細胞にウイルスが侵入することから始まります。ウイルス表面にある糖タンパク質であるヘマグルチニン(HA)が宿主細胞にあるシアル酸というレセプターと結合することで、ウイルスは宿主細胞内に取り込まれていきますが、その際、HAは前もってタンパク質分解酵素によって切断(開裂)されている必要があります。その切断にジンジバリス菌という歯周病関連細菌が産生するタンパク質分解酵素「ジンジパイン」が一役買っていることをこの研究チームが世界で初めて明らかにしました。「ジンジパイン」がHAを切断させる役割を持っていて、インフルエンザウイルスの感染を促進させるというのです。実際に口内に歯周病を発症している場合、ウイルスの量が21~28倍に増えるという報告さえあります。
さらには歯周病菌などの口腔内の細菌によってウイルスが活性化すると、抗インフルエンザ薬の作用さえ抑制してインフルエンザの重症化を招きやすくする可能性も示唆されています。
歯周病を克服して良好な口腔環境を保つことは、インフルエンザの予防にもつながります。すでに出血や腫れなどがある方は早期に歯科医院による治療を受けることをおすすめします。歯周病の出血はセルフケアだけでは治ることはけっしてありません。歯科医院でのプロケアを受けて、その後も定期的に歯科医院で専門のクリーニングを受ける必要があります。 「手洗い」「うがい」「マスク」というインフルエンザ対策に新たに「口腔ケア」加えて、この冬を健康に乗りきりましょう。


最近は“体年齢”のみならず、“肌年齢”をはじめ“血管年齢”、“骨年齢”、“脳年齢”と各パーツごとにチェックできる世の中になりつつありますが、”お口年齢”についても気になるところではないでしょうか。
「お口年齢」とは、お口の健康状態を年齢にたとえて表したもので、臨床の場で活用されているものでは昭和大学歯学部高齢者歯科学講座が開発したお口年齢(口腔機能年齢)を算出するシートがあります。口腔の清掃・乾燥、噛む力・飲み込む力、歯数、舌圧、咀嚼などをチェックポイントに「お口年齢」を算出し、実年齢よりも高い場合は、オーラルケアの見直しが必要となり、日頃の口腔ケアをはじめ、舌回し運動などで噛む力や飲み込む力を鍛えたり、唾液腺マッサージなどで若返りをはかります。
また、AOI国際病院歯科口腔外科ではデンタルシステムズ株式会社と共同で、歯科パノラマエックス線画像を解析して算出する「お口年齢AI」システムを開発しました。この「お口年齢AI」は現在歯数、インプラント数、咬合の状態、歯槽骨吸収量など、歯科パノラマエックス線画像から抽出したデータと、生年月日・性別の情報から「お口年齢」を算出します。歯周病に関連する歯槽骨吸収量も加味されるほか、抜歯後にブリッジやインプラント治療を行った場合は、たとえば実年齢70歳の人が、治療前の79歳相当から治療後は62歳と算出されるなど治療の成果も反映されます。
「お口年齢」を知ることは日頃の口腔ケアに集中できたり、治療へのモチベーションが高まるなと口腔衛生の向上につながるものとして大いに期待できるのではないでしょうか。
セルフチェックする方法としてスマートフォン用に「おくち元気チェック」というアプリが開発されており、無料でダウンロードできるのでお試しいただければと思います。このアプリでは「オーラルフレイル」といわれる口腔機能低下をチェックできるほか、トレーニング機能も追加されているのでぜひ活用されてみてはいかがでしょうか。


歯磨きの回数と意外な数値との関連性が報告されています。それはCRP(C反応性タンパク)といって血液中の炎症マーカーの数値ですが、歯磨きの回数が少ないとこの炎症マーカーのレベルが上昇することが複数の研究で示されました。
CRPは体内で炎症や組織の破壊が起こったときに肝臓で作られるタンパク質で、CRP値が高いほど体内に強い炎症が起きていることを示します。
イギリスのUniversity College London疫学・公衆衛生学科の研究では35歳以上の男女約1万2千人を約8年追跡調査したところ、歯磨き1日1回未満の人は2回以上の人に比べてCRP値が有意に高く、心筋梗塞などの心疾患になるリスクが1.7倍に高まると発表しています。
この研究から歯磨きの回数がCRP値と直接、関係あるわけではありませんが、歯磨きを怠ることで歯垢(プラーク)が蓄積して歯周病が進行し、歯肉が慢性的な炎症を引き起こすことからCRP値に影響を及ぼしていると考えられています。つまり、歯周病によって産生される炎症性物質が血液中に入り込むことで全身のCRPレベルが上昇しているというわけです。
歯周病による慢性炎症でCRP値が高い状態が続くと心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病だけでなく、骨粗しょう症、関節炎、腎炎、メタボリックシンドローム、低体重早産、誤嚥性肺炎などのリスクを高めたり、悪化させる原因となります。
一方で歯周病を治療して口腔内の炎症が改善されれば、CRP値は低下することが報告されており、全身の炎症状態も改善されて疾患のリスクを低下させる可能性が示唆されています。1日2回以上の適切な歯磨きは歯周病を予防するだけでなく、全身の炎症マーカーであるCRPレベルを低く維持するためにも重要だといえます。
日常のオーラルケアが将来にわたる健康生活を下支えすることを念頭において、毎日の歯磨きを地道に行っていきましょう。


歯並びの乱れや不正咬合(噛み合わせの悪さ)は多くの現代人が抱える健康問題の一つとされています。そのため、歯列矯正やあごの手術を受ける人も増えていて、審美的な観点からも美しい歯並びを求める傾向が高まっています。
ただ、人類は最初から歯並びが悪かったわけではなく、古代の人々においては硬い食べ物をよく噛んで食べることが日常的であったためにあごが発達し、歯並びも比較的整っていました。しかし、約1万2000年前に状況が一変します。人類が農耕を始めたことがきっかけでした。それまでの狩猟生活から穀物などの農作物が食事の中心になることで加工された柔らかい食べ物が増えて咀嚼する必要性がはるかに低くなったのです。その結果、あごへの刺激が減少し世代を重ねるごとに下あごが小さくなる一方、歯の本数は変わらないため、歯が並びきらず、重なったり埋まったりする不正咬合が増加したというわけです。この傾向は特に産業革命以降、より顕著になりました。
ただ最近、米スタンフォード大学のチームの研究では「ここ数世紀の人間のあごの変化は、進化によるものとしてはあまりに速すぎる」とし、単に食事や生活習慣だけでなく、遺伝的要因や成長過程での異常、さらには環境的要因なども複雑に関係していると指摘しています。実際に初期人類の化石の中にも歯の埋伏や不正咬合の例が確認されているとのことです。また、上または下の前歯が極端に前に突出する不正咬合は集団の遺伝的要因によるもので産業化とは無関係という例もあります。
結論としては不正咬合はそれほど単純な話ではなく進化、遺伝、現代のライフスタイルが複雑に絡み合って生じているといえそうです。
人類が農耕を始め、それまでの硬い肉や繊維質の野菜から、穀物などの柔らかく加工された食品に移行した1万年以上前の出来事が、現代人の歯並びの乱れにつながっているということは確かですが、かといって今から狩猟民に戻ることもできません。現代においてはデンタルIQ(歯に関する知識や口腔衛生に関する認識レベル)を高めつつ、歯ごたえのあるものをよく噛んで食べるという咀嚼筋を衰えさせない食生活を意識して歯と歯肉の健康維持に務めたいものです。


酷暑が続くなか、水分補給に気を配っている方も多いと思いますが、むし歯予防の観点から留意してほしい点があります。それは砂糖入りのジュースなどの甘い飲料をダラダラと時間をかけて飲むことはむし歯のリスクを高めるということです。
夏場は自販機を利用する機会も増えますが、そこに並ぶ多くの飲料は甘さや酸味が強く、歯のエナメル質にとっては大敵といっても過言ではありません。フタ付きのペットボトルは一気に飲み干すというよりも繰り返し口に運ぶことができるので、口の中の酸性度が維持されやすく、唾液による中和作用も働きにくくなって、むし歯になりやすい環境となってしまうのです。そもそも、甘い飲料水は大量に飲むと糖分の過剰摂取になってしまうため、熱中症対策の水分補給には適さないということをご理解ください。
無害なのは水とお茶だけといってよく、自販機に占める割合は3分の1以下、自販機の誘惑に打ち勝つのは至難の業です。
こうした販売されている各種飲料水(無糖の飲料水)には想像以上の糖類(ショ糖、果糖)が含まれていて、コーラ500mlには61.0g、オレンジシュース(濃縮還元タイプ)500mlには55.0g、スポーツドリンク500mlには25.5g、と実に多く、1本3g入りのスティックシュガーに換算すると、コーラは約20本分、オレンジジュース約18本分、スポーツドリンク8.5本分と驚くばかりです。「一日の砂糖摂取量は25gまでに制限すべき」というWHO(世界保健機関)のガイドラインをいずれの飲料も1本で軽く超えています。
とはいえ、甘いものは人生を豊かにする楽しみの一つでもあるので、完全に排除するのではなく、適切な飲み方、食べ方を選ぶことでむし歯のリスクを下げることが可能です。自販機での買い物は水やお茶だけにして、ジュースなどの甘い飲料は食事や間食のときだけに制限して飲むべしというアドバイスもあります。お菓子なども同様でしが、要はだらだらと食べ続けないで、必ず口を休ませる時間を持ちましょう。甘いものとのお付き合いはメリハリをつけた飲食をおすすめします。

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