冬場は鍋やおでん、シチューなど熱々のお料理がおいしい季節ですが、気をつけたいのは口の中のやけどです。口腔内の粘膜が耐えられるのは50~60℃までで、それ以上だとやけどを起こしていまい粘膜がざらざらになったり、ひどい場合は水ぶくれができたり皮がむけたりします。こうした経験された方も多いと思いますが、上あごの粘膜や舌先、唇などがヒリヒリと痛く、食事をするのも辛いものです。ただ、口腔内のやけどは体のほかの部分に比べて治りが早く、痛いのを我慢していると数日で治る場合が多く、これは唾液の殺菌作用や抗炎症作用のためといわれています。とはいえ、やけどがひどい場合は歯科医院のほか口腔外科、耳鼻咽喉科などが対象の診療科になりますので受診することをお勧めします。
ここで気になるのは猫舌の人とそうでない人の違い?などですが、そもそも”猫舌”という概念は医学的な根拠はなく、むしろ食べ方の違いではないかといわれています。MRI(核磁気共鳴画像診断)のスペシャリストである東海大学工学部医用生体工学科教授の高原太郎医師が連続撮像できるMRIによって、猫舌の人とそうでない人との熱いお茶を飲んだときの舌の動きを比較した研究によってわかってきました。
猫舌ではない人は、お茶が口に入ると舌が奥の方に後退させてできたスペースにいったんお茶を溜めてから喉へと流し込むようにしていたそうです。一方の猫舌の人は真逆で舌先を前に出して熱いお茶が舌にダイレクトに当たっていたということです。
舌の奥の方が温度に関して比較的鈍感なので、猫舌の人も舌先を熱いものから逃がすような動きを収得すれば猫舌は克服しうるということです。その際、熱にもっとも敏感な舌先を下前歯の裏に隠すようにして丸め、熱いものを舌の奥に流し込むようにするのがコツです。箸よりはスプーンやフォークを使った方が熱い食事を奥に運びやすいかもしれません。
ただ、こうした訓練もやけどをしてしまっては意味がありません。猫舌でない方もむやみに熱いものに挑戦して頻繁にやけどしてしまったりすると口腔ガンのリスクが高まる恐れもあるのであくまでほどほどを心がけてください。 こうしたお口の粘膜のトラブル(口内炎、口腔内の乾燥なども)がありましたら、お気軽にご相談ください。
現代病と呼ばれ、患者が増えている疾患の一つにドライマウスがあります。文字通り、唾液の分泌量が低下して口腔内が乾く病気のことですが、唾液にはさまざまな重要な役割があり、その唾液が減少してしまうと口腔内の衛生や噛む力など様々な口腔機能に影響が出てきます。症状が進行すると喉がずっと渇いている飲み物が手放せなくなったり、口の中がヒリヒリして痛くなるなど次第に違和感を感じるようなります。
ただ、初期の段階では意外と気づかないことも多いので、以下にあげたドライマウスの代表的な症状があるかどうか、自己チェックをしてみてください。
【✓チェック項目】
・口が乾く・水をよく飲む・就寝中口の中が乾く・口の中がネバネバする・唾液が溜まっている・話しづらい・舌が痛い・口臭が気になる・食事がしづらい・食べ物が飲み込みしづらい・今までと味が違う・入れ歯で歯ぐきが傷つく・虫歯になったり歯周病の症状が悪化する
ドライマウスの原因にはさまざまあり、循環器用薬と精神科用薬等薬剤の副作用のほか糖尿病や腎臓疾患、シェーグレン症候群などの全身疾患によるもの、精神的ストレス、筋力の低下、口呼吸、加齢などがあげられます。幾つかの原因が重なっていたり、また明らかな原因がわからない場合もあります。
治療法については全身疾患があればその治療のほか、乾燥した粘膜の保護には保湿剤、傷ついた粘膜に対しては軟膏の塗布など口腔内のケアを行います。
また、唾液腺刺激療法といってガムなどを噛むことで唾液腺を刺激する方法や唾液腺を直接マッサージする方法、舌や口腔周囲の筋肉を動かして鍛える筋機能療法も行われます。
ただ、ドライマウスの治療は効果がすぐには現れにくいので根気強く取り組む必要があるということを念頭にいれておきましょう。
50歳以上で発症する人が多く、「オーラルフレイル(口の機能の衰え)」の最も重要なサインともいわれています。ドライマウスを放っておくと舌が乾燥するため表面にある味蕾にダメージを及ぼして味覚障害になる可能性があります。気になる症状がある場合は早めに歯科医院や口腔外科内科を受診されることをお勧めします。
4人に1人が65歳以上となる日本の高齢化率(65歳以上の高齢者人口割合)は29.0%に達し、2025年には約30%、2060年には約40%に達すると見られています。お年寄りの割合が増えるに伴って社会問題化しているのが認知症患者の増加で、国としても「認知症施策推進綜合戦略」(新オレンジプラン:厚生労働省が関係府省庁と共同で平成27年に策定)を策定しています。そこで注目されるのは「認知症の発症予防」に「口腔機能の向上」を掲げていることです。
口腔機能と認知症との関連については、残っている歯の本数が多いほど(入れ歯やインプラント等で口腔機能が回復できているケースも含め)認知症になりにくいことが報告されていますが、最新の研究によって認知症の7割を占める「アルツハイマー型認知症」と歯周病との関係が明らかになりつつあります。
アルツハイマー型認知症は脳内にアミロイドβというたんぱく質が何らかの理由で排出されずに蓄積してしまうことが原因とされていますが、このアミロイドβの生成・蓄積に歯周病が大きく関わっていることがわかってきたのです。
2020年に発表された九州大学と北京理工大(中国)らとの研究チームの報告によると、同研究チームが3週間に渡って歯周病菌を直接投与したマウスと正常なマウスの脳血管や脳細胞に蓄積されたアミロイドβの量を比較したところ、投与によって歯周病に感染したマウスにはアミロイドβを脳内に運ぶ「受容体」が脳血管の表面で増加し、脳細胞のアミロイドβ蓄積量が10倍に増加していることがわかりました。実際に歯周病菌を投与したマウスによる記憶実験では記憶力の低下が確認されたとのことです。
このことから歯周病菌が歯肉の毛細血管から全身に運ばれることで、脳内にはアミロイドβの受容体(受け皿)が増え、アミロイドβが生成・蓄積されアルツハイマー病を発症させたり、症状を悪化させているというメカニズムが推測でき、歯を守るだけでなくご自身の健康を守るためにも徹底した口腔ケアが重要であることがわかります。⻭周病は初期の段階では症状がなく気づきにくい病気なので、歯科医院ての検診を積極的に受けて適切な治療を受けることが何よりも大切です。
悪天候の日にきまって頭痛がしたり、だるくなったり──、「雨の日はどうも調子が悪いな」と感じる方はいらっしゃいませんか。こうした気候の変化と体調との関係は気のせいではなく、ぜんそくや関節痛、神経痛の症状があらわれたり、古い傷が痛んだりすることもあります。気象病とよばれるもので天気の変化によって引き起こされる何らかの身体的・精神的な不調のことをいいます。最近は気温や湿度だけでなく、気圧の変化も体調に影響することがわかってきました。
口腔内もこの気象の急激な変化による影響を受けていてむし歯の痛みが増したり、歯周病が悪化して歯肉が腫れるなど急性の症状を引き起こすことがあります。
気象条件と歯周病との関係を研究しているのは岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の森田学教授らの研究グループで、森田教授は“飛行機に乗ると歯が痛くなる”と昔からよくいわれている現象に着目して、歯周病の悪化と天候との関係を調べ始めたとのことです。
森田教授らは同大学病院歯科で歯周病ケアを受けている患者約2万人を調査、歯ぐきの腫れや痛みなどの急性症状が出た患者360人のうち、心身ストレスや外傷、不十分な口腔衛生、喫煙などの原因が特定できる患者をのぞくと153名が原因不明の急性化を起こしているとして選び出し、この男女153人(平均年齢68.7歳)を対象に、岡山地方の気象状況(風速、気圧、日照時間、雨量、温度、湿度)を照合して解析しました。その結果、「気圧の急激な変化」と「気温の急激な変化」が、歯周病の急性化の引き金になっていることが判明しました。さらには気圧が急激に低下した日の2日後と、気温の上昇が大きかった日の翌日に発症するケースが多かったということがわかりました。その詳しいメカニズムはまだ不明ですが、気象変化によって生態の恒常性のバランスが崩れ、免疫力が低下することが要因の一つではと推測しています。
歯周病の急性化が起こるのは台風が通過した2日後がピークとのこと。これから本格的な台風シーズンを迎えますが、日頃の口腔ケアはもちろんですが事前に気圧、気温の変化が予測されるときには丁寧な歯ブラシや歯科医院でのプラークや歯石除去などのクリーニングを受けて事前の予防措置を心がけましょう。
歯を失ってもまた新しい歯が生えてくる!?そんな夢のような薬の開発が日本の研究チームによって進められています。
世界初の「歯生え薬」の臨床試験に乗り出すのは京都大学発のベンチャー企業「トレジェムバイオファーマ」で、この研究を主導する京大大学院の高橋克准教授(当時)らによって2020年に創業されました。高橋准教授は「歯を生やすのは歯医者の大きな夢であり、大学院生の頃からこのテーマに取り組んできました。絶対にできるという確信がありました」と話しています。
同社では生まれつき歯が生えない先天性無歯症の治療法として、2024年から臨床試験を開始し、実用化に向けて取り組んでいます。
先天性無歯症のように生まれつき永久歯が欠如する原因は、骨形成たんぱく質の働きを、「USAG-1」と呼ばれる分子が阻害しているために起こると考えられており、歯の成長を邪魔する「USAG-1」の機能を抑制する抗体を開発することで、歯の成長を促そうというわけです。高橋准教授らはこの歯の成長をブロックする機能を抑制する中和抗体を開発し、これを先天性無歯症マウスに投与するという実験を行い、見事に歯の本数を増やすことに成功しました。フェレット、犬などでも同様の効果を確認でき、いよいよ人への実用化に向けて安全性の確認試験や医薬品の製造・品質の管理基準に沿った製剤準備を始め、2024年には先天性無歯症の患者を対象にした治験を開始する予定です。
同社では最終的には虫歯や歯周病で歯を失ってしまった部位に“第3の歯”として自身の歯を再生させる治療薬の実用化を目指しており、こちらはすでにマウスでは永久歯の次の歯として完全な形での新しい歯の再生に成功し、2030年に認可を取ることを目標にしているとのことです。
この治療方法が定着すれば、生涯を通じて自分の歯で食事を出来るようになるため、健康寿命の延伸など世界の人々の健康で豊かな生活の実現に貢献することは間違いありません。
歯の再生治療に夢が膨らみますが、いまあるご自身の歯を大切にする気持ちはかわりなく持っていただき、日頃の口腔ケアと歯科クリニックでの定期検診、クリーニングでご自身の歯を守り抜くようお願いしたいと思います。
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