日本は現在、超高齢化社会といわれ65歳以上の人口の全人口に対する割合が23%を超え、2025年には30%以上になると推計されています。
世界でも類を見ない勢いで高齢化が進む日本ですが、それに伴い急増しているのが認知症患者です。認知症を発症する病気の約7割を占めるのがアルツハイマー病ですが、アミロイドβ(ベータ)やタウと呼ばれるタンパク質が脳に蓄積したり過剰なリン酸化により、海馬(記憶力に関係する脳の部位)を中心にした脳の委縮や神経伝達組織の機能低下が起こると考えられています。
アルツハイマー病の原因ともいえるアミロイドβという特殊なタンパク質について、従来は脳内で産生され蓄積されると考えられてきました。しかし、最近になってアルツハイマー病患者の脳内から歯周病の原因菌の一種であるポルフィロモナス・ジンジバリス(PG)菌の成分が検出されたことから、歯周病とアルツハイマー病との関連に世界的な注目が集まりました。
アルツハイマー病の根本的な治療法はいまだ確立されていないのが現状ですが、今回の研究でアミロイドβの脳内輸送を担うカテプシンBの発生を阻害する薬剤が開発されれば、アルツハイマー病に対する予防薬となる可能性が示唆されました。
歯周病とアルツハイマー病の関連について長年、研究してきたのが九州大学大学院歯学研究院の武洲准教授、中西博教授らの研究グループです。同グループではジンジバリス(Pg)菌を中年マウスに3週間連続で投与するという実験を行い、脳血管内皮細胞の周囲の脳実質においてアミロイドβが、Pg菌を投与していないマウスに比べ10倍増加し、記憶障害が誘発されることを突き止めました。その際、脳血管内にアミロイドβの脳内輸送を担う物資(終末糖化産物受容体RAGE)が発生していることもわかりました。このメカニズムを詳しく調べたところ、Pg菌感染で増大するカテプシンBという酵素の働きにより、脳内にアミロイドβを運ぶ物質(RAGE)の発現が亢進され、アミロイドβの脳内への流入が増加することを明かにしました。
アルツハイマー病の根本的な治療法はいまだ確立されていないのが現状ですが、今回の研究でアミロイドβの脳内輸送を担うカテプシンBの発生を阻害する薬剤が開発されれば、アルツハイマー病に対する予防薬となる可能性が示唆されました。
政府は認知症対策としてとくに予防に力を入れており、「70歳代での発症を10年間で1歳遅らせる」という数値目標を掲げています。今回の研究によりアルツハイマー病の発症を遅らせる手段として歯周病予防への期待が高まったといえます。
中高年慢性歯周病が認知症を誘発する可能性が初めて実証されたことにより、口腔ケアの重要性が再確認されたといえます。日々の丁寧なブラッシングと定期的な検診とクリーニングで健康長寿を目指していただければと思います。
いびきで迷惑した経験というのはだれしもお持ちだと思いますが、いびきをしている本人もじつはからだには負担がかかっているので要注意なのです。いびきをしているかは本人では気づかないのでやっかいなのですが、起きた時に口の中が乾いているという場合は口呼吸をしていたためであり、いびきが疑われます。鼻呼吸ではいびきになることはないからです。
いびきの原因は喉の奥の上気道が狭くなり、その狭くなった気道を呼吸のたびに空気が出入りするために周囲の粘膜が振動して起こります。就寝時は舌や喉の周りの筋肉が緩むため気道が狭くなりやすいのです。いびきで注意が必要なのは睡眠時無呼吸症候群(SAS)を伴う場合が多いからです。
「無呼吸」とは睡眠中呼吸が止まっている時間が10秒以上の場合で、無呼吸ではないが今にも止まりそうな弱い呼吸を「低呼吸」とし、1時間あたりの平均の無呼吸と低呼吸の回数が5回以上(5未満は正常)で日中の眠気や倦怠感などの症状を伴う場合、「睡眠時無呼吸症候群」(SAS)と診断されます。検査は鼻の呼吸センサーで睡眠中の呼吸状態を、指先に装着するセンサーで血中酸素飽和度や脈拍数などを計測し、睡眠の質を検査します。
無呼吸のときの状態は、酸素濃度が下がり呼吸不全になったときと同じでからだが非常事態となり、心拍数や血圧を上げて体中に十分な酸素を供給しようとします。これは日中に運動をしているような状態といえ、この非常事態を毎晩、1時間に何回も、何十年も繰り返すことで心臓への負担が蓄積し、高血圧や虚血性心疾患、不整脈、脳血管障害、大動脈解離などの循環器病や糖尿病のリスクを高めることが報告されています。本来、からだを休めるべき就寝時に病気がつくられるということから、最近はこのSASを循環器病として捉え、積極的な治療と研究が行われるようになってきました。
治療法にはCPAP装置を用いて空気圧で狭くなった気道を広げる療法が一般的ですが、歯科的な治療としてマウスピースを使った治療法があります。マウスピースの装用により下顎を前に出すことで舌根を引き上げて気道の閉塞を抑制しいびきやSASを緩和します。下顎の位置をずらすために違和感や痛みを覚える場合もいるので、前に出す位置の調整しながらご自身でも少しずつ慣れていく必要があります。CPAP療法に比べて特別な装置も必要なく手軽にでき、旅行などにも携帯できるというメリットがあります。
日本人は欧米人のような高度の肥満体型は少ないのですが、あごがきゃしゃなことが原因となることがあり、日本人のSASの患者さんの約30%はあごが小さいことが原因とも言われています。
現在はいびき外来や睡眠外来など受診窓口も増えていますので、ご家族にいびきや無呼吸といわれた方はぜひ一度ご相談されることをお薦めします。
この時期、コロナの影響によりご自宅でテレワークをされている方も増えていると思います。職場の環境とは変わるためなにかと不便を感じたり、イライラされることも多いのではないでしょうか。そうしたことから肩や首が凝ったり、あるいはパソコンの画面を見ながら無意識に上下の歯を噛み合わせていたりということはいないでしょうか。最近、増えているのが歯列接触癖(TCH=tooth contacting habit)という症状で、不必要に上下の歯を噛み合わせてしまう習慣のことをいいます。強い力ではありませんが長時間続くと身体にさまざまな悪影響を与えるリスクがあるのです。
上下の歯は食事の時以外は1~3mm程度のすき間が開いているのが普通です。1日で上下の歯が閉じている時間というのは飲食のときと話す時でわずか20分以下に過ぎません。
TCHは昔であればキーパンチャーなどの職業の方にみられたそうですが、現在はパソコンに向かっている時に発生しやすいということです。TCHになると知覚過敏になったり、歯周病の悪化につながるほか、頭痛や肩こりの原因になる場合もあります。顎関節やその周囲の筋肉に負担がかかり、顎関節症を招く恐れもあるので注意したいものです。
TCHとわかれば歯科医院でマウスピースを作製してもらい就寝時に装着することで歯への負担を軽減できます。ただ、モニターの隅に「歯を離そう!」とメモ紙を貼り付けて、ご自身で意識するだけでもずいぶんと違ってきます。1時間仕事をしたら10分休憩を取り、軽く体を動かしたりストレッチなどをして緊張感を解放するとさらによいでしょう。
テレワークでもう一つ気をつけたいのは間食をしがちになるということです。頭を働かせよういうときには甘いものをとりたくなりますが、むし歯や歯周病のリスクを高める原因になるので要注意です。食事をしたときは口に中が酸性に傾いて歯の表面のエナメル質が溶けやすい状態になります。これを脱灰と言いますが、食後は唾液による中和作用により、弱アルカリ性に戻り、いったん溶け出したカルシウムが再び歯の表面に戻ります。これを再石灰化といってむし歯になることを防いでいます。しかし、間食をすると再石灰化される前に口の中が酸性になるため脱灰が起こってしまい、歯を修復する機会が失われてしまうのです。そのため、むし歯になるリスクが高まると同時に歯周病の原因菌を増殖させて歯周病を悪化させかねません。
テレワークではこうした間食のほか、お弁当などを食べながらのオンラインの打ち合わせなどだらだらと飲食したり、食事後の歯ブラシなどをつい怠りがちになったりしますが、こうした間食やだらだら飲食を切り上げる方法として、歯磨きを丁寧にするのが効果的です。口の中をすっきりと磨くとスナック菓子や甘い飲み物などを再び口の中にする気持ちがなくなり、間食防止と口腔ケアと一石二鳥だといえます。
食事の時間をしっかりと決め、歯磨きを行うことで間食の誘惑にも打ち勝って、健康な歯と歯ぐきで在宅ワークを快適に過ごしたいものです。
マスク生活も長くなり、街にはカラフルなマスクも増えておしゃれなアイテムの一つとして定着しているようです。
ただ、マスクの着用で最近、気になることはマスク下で口呼吸をする人が増えているということです。3月のコラムでも述べましたが、本来、哺乳類は鼻呼吸する動物であり、人間だけが進化の過程で話すという機能を身につけたために口で呼吸することもできるようになりました。ただ、口には呼吸のための機能がないのでさまざまな弊害が生じてしまいます。
なぜ、マスクをしたときに口呼吸になりやすいかといえば、鼻から息を吸うよりも、口から吸った方が吸い込む力がいらず楽だからということがあります。マスクをして息苦しくなると、つい楽に感じる口呼吸をしてしまうのです。
鼻呼吸が楽ではない(鼻腔抵抗といいます)理由には鼻腔の構造が入り組んでいて空気が通りづらいということがあります。ただ、この鼻腔抵抗があることで呼吸のリズムが安定するほか、複雑な構造の鼻腔を通る間に冷たい空気が温められ、さらには加湿されるので肺への刺激が和らげられるという作用があります。そのほか空気中の異物が体内に入って来ようとしても鼻毛でキャッチされるほか、チリの微粒子や花粉、細菌などはさらに奥にある粘液層や粘膜に密生する繊毛によって捉えられ、体の外に排出することができます。
口呼吸の場合は、鼻呼吸に備わるこうした機能が一切ないので、汚れたままの乾燥した空気が直接、肺に入ることになり、感染症のリスクが高まるといえます。
また、口呼吸をすると口腔内が乾燥しやすくなるため、唾液による自浄作用が働きにくく、むし歯や歯周病の原因菌が繁殖しやすい状態になるほか、口臭もきつくなってしまうのです。
口呼吸は放っておけばお子さんであれば、“ぽかん顔”に、大人であれば口元がたるみ口角が下がり、ほうれい線が深くなって「老け顔」になるなどよいことはありません。
マスクをしていると笑顔の回数が減って表情が乏しくなってはいないでしょうか。マスクによる影響は口呼吸だけではなく、表情にも現れます。表情筋も費用対効果ではありませんが、マスクの下では省エネモードになってしまうのかもしれません。表情筋がこわばってしまったら、口の周囲をドーナツ状に囲む口輪筋の運動が効果的です。口輪筋からは放射線状にたくさんの表情筋が伸びているので口を大きく開けたり、すぼめたりする運動を繰り返すことで表情筋の活性化につながります。
外出する機会が減るとエチケットマナーへの意識も薄れがちになります。1日3回していた歯磨きが1回だけになってしまったり、歯が黄ばんだり、茶渋がついていても平気になってしまったりすることなどが懸念されます。
マスクをすると口呼吸で楽、表情筋を節約して楽、さらにはお口のエチケットがおろそかになって楽と、気がゆるみがちになるので気をつけたいところです。最近の航空会社の客室乗務員の教育にはマスク越しの笑顔の作り方が盛り込まれていて、そのポイントは「見えていなくても口元はしっかり笑うこと」だそうです。さすが接客業のプロといえ、見習いたいものです。
マスクを外したときにも自信をもって笑顔になれるよう、歯科検診とクリーニングも忘れず受診するようにしてください。
親知らずが生えて来ないという人も珍しくなくなっていますが、4本生えてきたという人でもまっすぐに生えているケースは少ないのではないでしょうか。内側や外側に倒れ込んでいたり、水平になって歯ぐきに半分埋まっていたりと“萌出異常”となる頻度が高いのも親知らずの特徴の一つです。
まっすぐに生えてこられない理由としては硬いものや噛みごたえのある食事をしなくなった現代人のあごがきゃしゃでスマートになったためで、親知らずが生えてくるスペースが不足しているためだといわれています。
いずれにしろ、親知らずは生えてくる時期も18歳から20歳前後と極端に遅いことからも退化傾向にあることは確かなようで、いずれは消えゆく存在なのかもしれません。
親知らずはむし歯などトラブルを起こしやすい歯でもあります。その原因は歯列の一番奥に位置していて、しかもまっすぐに生えていないため歯ブラシが届きにくく、日頃のケアがしにくいということがあげられます。とくに手前にある第2大臼歯との間に歯垢がたまると2本もろともにむし歯になるパターンが少なくありません。咀嚼の要ともいえる第2大臼歯を失うダメージは大きいのでむし歯になった親知らずは早めに治療するか、抜歯が薦められます。
また、“智歯周囲炎”は若い人に多い症例ですが、半分歯ぐきに埋まったような状態の親知らずなどで歯の周囲の歯肉が炎症を起こし、ひどくなると顔が腫れたり、口が開けにくくなったりするので放置せずに早めに対処することが肝心です。
症状がなくてもその生え方や歯ぐきの中に完全に埋まっていても歯並びや噛み合わせが悪くなる原因となることがあるため、X線検査によって診断し、弊害が認められる場合には抜歯が薦められます。親知らずは年齢とともにあごの骨との癒着が進むため、抜歯が必要と診断された場合、若いうちの方が断然楽だといえます。
抜歯の方法は親知らずが直立している場合は他の歯の抜歯と同様の方法でできますが、水平に寝ていたり、完全に歯ぐきの中に埋伏している場合は歯肉を切り取り、歯を露出させてから歯を取り出すスペースを確保すべく周囲の骨を少しずつ削っていき、最終的には歯を分割してから除去します。とくに親知らずが完全に埋まっている埋伏歯の場合や、歯髄から細菌が侵入して歯根の先に膿の袋ができる歯根嚢胞などは口腔外科での手術となります。
最近は親知らずを歯のない部位やブリッジの土台を支える歯として移植する方法が見いだされています。ただ、移植する親知らずが健康な歯であることはもちろん、歯根が極端に曲がっていたり、複雑に分かれていないことや移植する部位の穴の大きさと極端に違わないことなどいくつかの条件をクリアしなければならず、移植後も数ヶ月は固定し細菌感染などにも細心の注意が必要です。成功へのハードルが高いことも事実ですが、再利用のその日まで口腔ケアをしっかりと行って温存するというのも一つの選択肢かもしれません。とはいえ、親知らずになんらかの症状を抱えている方は無理せず早めに歯科医院を受診してご相談されることをお薦めします。
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