11月8日は「いい歯の日」として知られていますが、平成5年に日本歯科医師会が「8020運動」推進しようとアピールしたのが始まりです。この日にちなんで世界の各国の口腔衛生への意識や行動について、サンスターが行った調査から見ていきたいと思います。この調査はヨーロッパ、アジア、南北アメリカ地域の15カ国の18歳から65歳までの男女15,000人を対象に2021年4月に行われました。
普段のオーラルケアについては、第一位が「1日2回歯を磨く」が15カ国平均で53%と最も高く、日本も56%と同レベルですが、「舌を磨く」、「フッ素入り歯磨きで磨く」、「年に2回歯科医院に行く」、「食後の歯磨き」、「フロスの使用」、「電動歯ブラシの使用」、「砂糖入りのお菓子や飲み物を避ける」という項目で、各国平均を下回っていることがわかりました。とくに「洗口液を2日に1度以上使用する」日本人の割合は21%と各国平均の33%を大きく下回り、口腔ケアは歯磨き中心であることがうかがえます。
お口の悩みとしては最も多い回答は知覚過敏(各国平均30%)で、二位「むし歯がある」、三位「歯ぐきに炎症がある、歯周病がある」と続きます。知覚過敏について日本は19%と低く、最も多いお悩みは「口臭がある」(34%)で、15カ国の中でもトップでした。ちなみに口臭を気にするエリアはアジア地域で高い傾向にあり、最も少ないのはブラジルでわずか8%でした。
日本人の回答で注目すべきは、「口腔内の健康が身体全体の健康に関係することを理解している(健康寿命の延伸)」人の割合が38%と、各国平均の21%を大きく上回ってトップだったことです。オーラルケアが全身の健康、ひいては健康寿命を伸ばすことが周知徹底されてきている成果であり、口腔衛生への理解度が高まっていることがわかります。
また、魅力的な笑顔づくりのために希望する施術としてホワイトニングが48%と日本も含めた多くの国で人気で、矯正治療(16%)、インプラント(11%)等を上回っていました。
ちなみにお口の健康のためにやめたいと思っている習慣のトップ3は甘いお菓子(中国がトップで31%)、喫煙(ドイツとスペインで最も高い)、歯に着色しやすい飲み物(イタリア、インドネシア、ブラジルで高い)という結果で、やはり甘い物の誘惑は各国共通のようです。
この調査で各国の文化や習慣の違いもありますが全体的にはオーラルケアへの関心が高く、日頃からお口の健康に気をつかっていることがわかります。
むし歯になりやすい食べ物の一つとして甘い物があげられますが、この甘い物を食べ始めると止まらない、ついつい食べ過ぎてしまうという方が少なくないかもしれません。甘い物はなぜやめられないのか、最近その理由が解明されて話題を呼んでいます。
チョコレートやクッキー、ケーキ等は砂糖や油脂が多く含まれる高カロリーな食品を食べると私たちは美味しい、うれしい、幸福だと感じて脳内にはドーパミンという神経伝達物質が放出されます。脳はこの「幸福感」を覚えていて、また同じ快感が得られるような行動を繰り返すようになります。食べることで幸せを感じて、また食べたいと思う回路(脳の報酬系回路といいます)があるからこそ、人類はここまで生き続けて来られたといえますが、飽食の時代といわれる現在においては、このシステムは肥満を促すシステムとして作用するようになってしまったといえます。
また、病的に肥満している人の脳はドーパミンを受け取る受容体の数が少なくなっていて、食べ物に対する反応が鈍くなっているといわれています。つまり、「食による快感」が得られにくいため、より美味しいものを、より大量に食べることで満足感を得ようとするのです。そのためにさらなる肥満を招くという悪循環に陥っているといえますが、ドーパミン受容体の減少は薬物依存症の人の脳でも認められていて、「食べ過ぎを止められない」という症状は薬物依存症と似ているということがわかってきました。ただ、甘いものや高脂肪の食べ物がドーパミンの受容体数を減少させる理由についてはまだ、よく分かっていません。
甘いお菓子やジャンクフード等はついつい口に入れてしまいがちですが、依存性に陥る可能性があるので甘く見てはいけないということがわかります。甘いものの取り過ぎは歯の健康にも悪影響があり、とくに間食はむし歯のリスクを高めます。食事のときには口の中が酸性に傾くため、歯の表面のエナメル質からカルシウムやリンが溶け出しますが、食後は唾液の作用によって中和され、唾液に含まれるカルシウムイオンとリン酸イオンによって、歯の表面が修復されますが、頻繁に間食を取ると、この修復が間に合わなくなり、むし歯へと進行する恐れが出てくるためです。
食後、歯を磨いたらそれ以降はなにも口に入れないことがベストですが、間食は1日に1回など回数を決めるだけでも、むし歯予防なりますのでぜひ実践してください。
金融の記事のようなタイトルですが、もし仮に一本の歯に資産価値をつけるとしたらどれくらいになるか、考えてみようというのが今回のテーマです。
交通事故で歯を失ってしまった場合の賠償請求額は一本80万から120万円という判例があります。歯の本数は親知らずを除くと28本になるので、合計すると2,240万〜3,360万円ということになります。お口の中に家が買えるほどの資産があると聞くとびっくりしますが、一般財団法人日本予防医学協会では“歯一本の価値について”各方面に聞いて調べています。歯科医師からは一本104万円という回答が得られ、この中には噛み合わせや歯並びを揃える費用等も含まれているそうです。お口の中全体では28本分で2,912万円と、前述した賠償請求額に近いものになります。
「いやいや、歯の資産価値はそんな安いものではないよ」というのがアメリカの一般的な人の回答で、歯一本は500万円の価値があるとしています。28本では1億4,000万円とかなりの高額です。
一方、気になる日本人の回答ですが、歯一本は約35万とかなり低い額となっています。この差はどこから来るのか興味深いところですが、健康保険制度によって治療費の負担が原則3割で済む日本に比べて、全額自己負担のアメリカでは気軽に治療は受けられないという背景があるのかもしれません。実際の歯の治療費も日本の5~10倍と跳ね上がるので歯そのものの価値もより高いものと認識されるのかもしれません。実際に虫歯の治療に20~30万円とかかるそうなので、できるだけ歯科医院の御世話にならないよう口腔ケアには熱心にならざるを得ないということに納得がいきます。その結果、治療から予防へという意識の転換が自然となされていることがわかります。
日本の場合は国民皆保険制度によっていつでも手軽に治療が受けられるという安心感からか、予防重視へと舵が切れないでいるのが現状かもしれません。
歯という資産は日頃のメンテナンスが悪いとその価値が目減りしていき、最悪の場合は資産ゼロにもなりかねません。ただ、この資産を維持することは難しいことではなく、地道なホームケアと定期的なプロのケア(歯科クリニックでの定期検診とメンテナンス)の両輪で進めていけばよいのです。むし歯や歯周病が重症化して治療するよりも、よほど経済的にも身体的にも負担がかかりません。
いずれにしろ、歯は私たちの健康を支えるうえで大切な役割を果たしており、一度失うとお金では取り戻すことはできないかけがえのない存在です。症状が出てから治療するのではなく、とくに問題がないときにこそ予防に取り組むという発想の転換が大切だといえます。
長期間のマスク着用で気をつけたいことは、知らず知らずのうちに口呼吸をしていてる人が増えているという点です。マスクをしたときには呼吸をしにくくなるため、より楽に息が吸える口呼吸をしてしまいがちになるためですが、本来呼吸は鼻から吸うのが基本です。以前も取り上げましたが口呼吸については健康上、さまざまな弊害があり、とくに夏場においは熱中症予防という観点からも注意が必要です。
口で呼吸ができるのは人間だけでほかの哺乳動物は皆、鼻呼吸です。このことは人が声帯を使って話すことと関係が深く、人類の進化の過程で得た特殊な呼吸法といえます。
口から吸うか、鼻から吸うか、空気が肺まで届くのにはかわりはないと思うかもしれませんが、そこには大きな違いがあります。
鼻には鼻腔という粘膜で覆われた空間が備わっており、この鼻腔を通ることで空気中のチリや花粉、細菌やウイルスといった空気中の浮遊物が鼻腔の内側の粘膜に付着することで取り除かれ、さらには冬場など乾燥した冷たい空気が温められると同時に湿気を帯び、気管支や肺へのダメージを軽減することができるのです。鼻が“天然のマスク”といわれるゆえんです。
さらには鼻腔の奥には脳に繋がっている毛細血管がたくさん通っているので、鼻呼吸によって冷たい空気を通すことで毛細血管を通る血液を冷やして脳へと送ることができるのです。このとき鼻粘膜の水分が蒸発することによる気化熱も利用して脳を冷やしているのです。脳は熱に弱いため、過熱を防ぐシステムが備わっているのですが、鼻呼吸による冷却システムもその一つといえます。
このように鼻呼吸には空気清浄機能であったり、エアコン、加湿器、ラジエーター(冷却装置)と多彩な機能が備わっていますが、口呼吸にはこうした機能が伴わないため、いかに無防備に空気を体内に取り込んであるかがわかります。それだけでなく、口呼吸は虫歯や歯周病のリスクを高めたり、口臭が強くなるなどの弊害もあります。その理由は口呼吸をするとどうしても口の中が乾くため、唾液によって口の中を洗い流してくれる自浄作用が働きにくくなるためです。この自浄作用はむし歯予防や歯周病予防の一つになっていて、口臭も抑えられているといえます。
夏場こそ、鼻呼吸によるラジエーター機能をフル活動させたいところですが、マスク下においては温かい吐息を再び吸うことになり、脳の冷却がうまく働かない恐れが生じます。そのため、頭がぼーっとしたり、頭痛を起こすなど熱中症のリスクも高まりますので、そうしたことのないよう屋外や人の密集していない換気の良い場所ではマスクを外して新鮮な空気を鼻から送り込むことが必要です。
長引くマスク生活においては、マスクの下で固まりがちな表情筋をよく動かしたり、筋力の低下しがちな口の周りや舌の筋力を鍛えるなどの筋トレが有効になります。きちんと鼻呼吸をしているかご自身で確認して、もし口呼吸であれば、本来の鼻呼吸を取り戻して夏場を乗りきっていきたいものです。
チーズとむし歯一見、なんの関係もなさそうですが、実はチーズにはむし歯リスクを軽減する働きがあることがわかってきました。2003年にWHO(世界保健機関)のリポートで発表されてチーズのむし歯予防効果が知られるところとなり、欧米ではいまでは常識になっているそうです。
そもそもむし歯はミュータンス菌などのむし歯菌がお口の中の糖質をえさにして酸を作り出して、歯の表面のエナメル質を溶かして侵食していくことから始まります。とくに食事中は口の中が酸性に傾くので歯の表面のエナメル質からカルシウムやリンが溶け出してごく微細な穴があきます。これを脱灰といいます。食後は唾液の作用で酸性が中和され、さらには唾液に含まれるカルシウムやリン酸の成分によって歯の表面が修復されます。これが再石灰化といわれる働きです。食事のたびにこの脱灰と再石灰化が繰り返されることで、むし歯にならずに済んでいるわけですが、摂取する糖類の量が多かったり、間食を頻繁にしていると再石灰化が間に合わず、虫歯へと進んでしまうのです。
食事の最後にチーズを食べると、チーズはアルカリ性の食品なので口の中の酸性が中和されるため、エナメル質が溶け出すのを防いでくれるのです。更にはチーズには唾液と同様にカルシウムとリン酸が豊富に含まれているため、再石灰化を促してくれます。チーズによって歯の成分の補充することで初期の虫歯であれば、自然治癒する可能性といわれています。
チーズは食事のあとに食べることが鉄則ですが、たくさん食べる必要はなく、10gから15g程度(1.5㎝角程度)をよく噛んで食べます。よく噛むことで唾液の量も増えるので相乗効果により予防効果が高まります。
チーズの種類ではチェダー、エメンタール、パルメザン、ゴーダといったハード、あるいはセミハードタイプのチーズは水分量が少なく、カルシウムとリン酸の量が非常に多いので再石灰化には効果的です。
歯ブラシは食後、10分程度間をおきます。食事の直後は酸性に傾いているので歯の表面を逆に傷つけてしまうおそれがあるためです。
WHO(世界保健機関)ではむし歯予防ランキングとしてチーズを2位に挙げています。ちなみに1位にフッ素、3位がキシリトール、4位は紅茶です。紅茶にはフッ素が入っているためです。
ワインがお好きな方はチーズを最後につまみとして最後に食べるのがお薦めです。ワインは酸が強く、糖分も含まれているので歯にはマイナス要因ですが、チーズをよく噛んで食べることで歯を守ることになります。お子様のおやつなどにも歯を強くするチーズは最適といえます。
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