国民の8割がかかっているといわれる歯周病ですが、その実態を少し詳しく見てみましょう。厚生労働省では歯科疾患実態調査を6年ごとに行っていますが、この調査では歯周ポケットの有無と、歯肉出血という2つの側面から検査しています。2016年の調査では歯周ポケット(4㎜以上)の保有者の割合は45歳以上で過半数を占めており、最も多い世代は65〜74歳で約6割という結果でした。
また、歯肉出血がある人の割合は15歳以上のどの年齢層でも4割前後と一定していることがわかりました。
こうしてみると“国民の8割”といううたい文句は実態をやや上回っている感が否めませんが、これについては歯石がついているだけでも「歯周病の所見あり」とされていた改訂前(2005年、2011年)の評価方式の影響が大きいのではといわれています。
とはいえ、歯周病は中高年ともなると過半数の人が罹患し、むし歯とともに日本人が歯を失う2大原因であり、予防と早期治療がなにより大切であることには変わりありません。歯周病の予防と治療の原理はいたってシンプルで歯周病の原因となる『歯垢』を取り除くということに尽きます。その方法は歯科医院で行う専門的な『プロフェッショナル・ケア』と、患者さん自身による『セルフ・ケア(ブラッシング)』になりますが、この2つが揃ってこそ最大の効果が発揮されます。
セルフ・ケアで気を付けたいのは自分では磨いているつもりでも実は磨けていない人が意外に多いことで、その原因は磨きたい所に毛先がきちんと当たっていないためです。歯磨きといえば、小さい頃からむし歯にならないための食べカスの除去が中心となり、歯垢を落とすことはあまり意識されていないせいかもしれません。
歯垢を除去するためには歯ブラシの先を歯と歯ぐきの境目、つまり歯周ポケットにきちんと当ててその場所でブラシを小刻みに動かし、歯垢を掻き出すようにします。電動ブラシも同様に、ブラシを歯の付け根に当てるようにします。歯垢除去用の歯ブラシはヘッドが小さめで歯肉を痛めないよう軟らかめのブラシを選ぶとよいでしょう。
歯周病は“サイレントディジーズ(沈黙の病気)”といわれますが、先の厚労省の調査では「歯ぐきが痛い、腫れている、出血がある」と回答とした人が、65歳未満の成人では約15%前後、65歳以上では10%強と自覚症状を感じている人が少なくないことが先の厚労省の調査で報告されています。歯肉に違和感を感じたならば、そのまま放っておかずにできるだけ早く歯科を受診することをお薦めします。
私たちは“噛む”ことから、健康によいさまざまな恩恵を受けていますが、普段、こうした噛むことの健康効果について理解、意識して食事をしているか、実際の咀嚼回数はどれくらいか等、噛む全般についての調査が実施されました。「全国“噛む力”調査」(株式会社ロッテが調査実施)がそれとなり、全国47都道府県別に20代から60代の男女100名ずつ(計4700名)を対象にして実施されました。
噛む回数については、夕食時の一口あたりに噛む回数を調査。専門家は一口30回以上を推奨しているのに対して、96%が30回未満と予想以上に「噛む離れ」が進んでおり、食生活やライフスタイルの変化が顕著になっていることがうかがわれます。
そうした中でも、「噛む力」が最も高いのは60代女性で、最も低い世代は40代男性でした。「食事の際に『よく噛むこと』を意識していますか」という質問に対して、「あまり意識していない・まったく意識していない」と回答した割合が多いのも、同じく40代男性(70%)で、働き盛りといわれる40代男性は噛むことへの関心や意識が低い傾向にあることがわかりました。
県別にみると「噛む力」全国1位は秋田県で、2位は福島県、3位は福岡県と大分県が同率で続きます。上位県の秋田県と福島県ともに、噛むことの「意識」「行動」「知識」の3要素のどの設問においても得点が高かったこと、3位の福岡県は「よく噛むこと」への意識が高く、一口あたりに「20回以上噛む」割合が最も高いことがわかりました。一方、「噛む力」が最も低かったのは富山県で、「やわらかい食べ物」を多く食べている割合が74%と最も高かったことが影響しているようです。
全国47都道府県の名産品や名物料理などの一口あたり(約10g)の咀嚼回数も測定したところ、最も咀嚼回数が必要な名産品は熊本県の「馬刺しステーキ」(一口あたり115回)、続いて富山県の「しろえび(から揚げ)」(105回)、岐阜県の「鶏ちゃん」(95回)という結果になっています。噛みごえがある美味しい名産品をよく噛んで味わうことで噛むことを意識するきっかけづくりになればとのことです。
「噛むこと」には脳の活性化による認知機能改善や集中力の向上、口内の自浄作用のほかストレスの軽減をはじめ肥満防止、唾液のよるアンチエイジング効果、抗ウイルス作用など多くの効用が認められています。食事の際にこうした効用を意識しながら、一口づつよく噛むことで健康な生活を維持していきたいものです。
最近、耳にする言葉にフレイルという言葉があります。フレイルとは高齢者になって心身の活力(筋力、認知機能、社会とのつながりなど)が低下した状態をいいます。
海外の老年医学の分野で使用されている「Frailty(フレイルティ)」が語源になっていて、虚弱や老衰、脆弱などの意味がありますが、こうした変化に早く気づき正しく対応すれば、健康に戻ることができる変化を指しています。
フレイルとしてあげられているのは、体重減少(年間4.5kgまたは5%以上の体重減少)、疲れやすい(何をするのも面倒だと週に3〜4日以上感じる)、歩行速度の低下、握力の低下、身体活動量の低下の5項目です。3項目以上に該当するとフレイル、1または2項目の場合はフレイルの前段階であるプレフレイルと判断されます。
全身の身体機能の低下より先に社会参加など他者との交流が減ったり、口の機能が衰えることがきっかけといわれています。とくに口腔機能の衰えである”オーラルフレイル”がその入口となることも多いため、注意喚起がなされています。
口腔機能の低下は食べる機能の障害から栄養バランスの乱れ、低栄養、体重の減少、さらには心身の機能の低下につながる負の連鎖を引き起こすからです。
現在、厚労省でもフレイルについて注目し、2040年までに男女ともに健康寿命の3年以上延伸を掲げた「健康寿命延伸プラン」の具体的な取り組みの柱の一つとして「介護予防・フレイル対策、認知症予防」を位置づけています。
コロナ禍においては外出することが減り、人との交流が途絶えがちなりますが、自粛生活の長期化によってフレイルが進むということが最新のデータからわかってきました。確かに高齢者ではなくても、以前よりもやる気の低下や筋力の低下などを感じる方も少なくないのではないでしょうか。とくに口腔機能についてはマスク生活が長引くことからお口の周りの筋肉の衰えなど少なからぬ影響が出始めています。
オーラルフレイルは滑舌の低下のほか、食事の際にむせる、噛めないものが増えるなど普段の生活の中のささいなトラブルから始まります。食事もやわらかいものが中心となると、ますます噛む行為が減り、咀嚼機能の低下につながるなど悪循環に陥る危険性があります。以下にあげたチェック項目でお口の健康状態をセルフチェックしてみることをお薦めします。
オーラルフレイルの予防としてはささいな衰えに気づくこと、バランスのよい食事を心がける、かかりつけの歯科医を持つことの3点があげられています。かかりつけ歯科医に定期的に通って検診とクリーニングをすることは小さな変化に気づきやすく、早期に対策が取れるというメリッとがあります。全身の健康を支える基本は日々の栄養管理といえ、何を食べるかということはもちろんですが、しっかり噛んで食べるということもまた、同じくらい重要だということも忘れないでください。オーラルフレイルの予防で全身の健康維持を実践していきたいものです。
むし歯の治療というと金属や高価がセラミックによる詰め物が一般的でしたが、ここ10年間で詰め物の素材も進化し、コンポジットレジンとよばれる白い修復材料が多く用いられるようになってきています。
コンポジットレジンとは合成樹脂(コンポジットは合成)を意味し、レジンは樹脂(プラスチックのことを指します)のことをいいますが、歯科用のコンポジットレジンは合成樹脂にセラミック粒子やシリカ(ガラス)の粉末を合わせた複合プラスチック素材です。日本では1978年から保険適応になりましたが、当時は耐久性や変色などの問題がありそれほど普及しませんでした。その後、素材の研究開発が進み、なかでもコンポジットレジンは飛躍的な進歩を遂げて、いまや夢の歯科材料としてむし歯治療だけでなく歯の形を修復したり、歯のない部分を補ったりする治療法としても注目を集めています。
コンポジットレジンによる修復法は多くの利点があるため普及が進んでいますが、その一つはなんといっても白い素材なので周囲の歯となじむ自然な仕上がりになることがあげられます。さらにできるだけ削らない最小限の治療が可能であることです。専用の器具を用いてむし歯の部分だけを取り除き、そこに接着材を塗ってコンポジットレジンを充填して固めるので感染の危険性も少なく、従来のようにむし歯以外のところまで必要以上に大きく削る必要がありません。削る量を最小限にできるので歯の寿命を伸ばすことができる治療といえます。
歯科治療で一般的に用いられているコンポジットレジンは「光重合型」で、ペースト状の柔らかいレジンに直接強い光(専用のLED)を3秒から10秒ほど当てることで固まる性質があります。従来のように型を取って詰め物を作る必要がないのため、治療時間は大幅に短縮されます。むし歯の部分を取り除いてコンポジットレジンを充填して固めて終了となるので、治療そのものは約30分程度で通院も1回で完了します。しかも保険が適用されるので経済的にも負担になりません。
ただし、コンポジットレジンも万能というわけではなく、金属やセラミックにような強度がないため、強い力がかかると破損したり、破損しないまでも摩耗しやすいということがあります。また、水分を吸って着色や変色するなど経年劣化しやすいことなどがありますが、金属の詰め物は見た目に抵抗がある方や金属アレルギーの心配などの理由からコンポジットレジンを希望する患者さまが多く人気が高い治療法です。
むし歯が深かったり、隣り合う歯との境目に大きく広がった虫歯の場合などはコンポジットレジンンによる治療が適応にならないため、できるだけむし歯が小さなうちに発見することが有効だといえます。むし歯の早期発見のために、さらにはコンポジットレジンの治療後のリカバリー(欠けや変色の修正が起こっても、容易に修正することができます)という点でも定期的な歯科検診を受けることが有効だといえます。
コロナ禍での健康志向もあり、オーラルケアへの関心が高まっています。それとともに歯ブラシや歯磨き粉などの市場が伸びていて、なかでも2万円もする高機能の電動歯ブラシがよく売れているとのこと。マスクをすることで自分の口臭が気になりだしたという人も少なくないようですが、自宅でのセルフケアを今一度見直して充実を図ろうという姿勢がうかがえます。
電動歯ブラシはブラシの形状にも各メーカーで特色があり、そのブラシが高速で振動、あるいは回転をすることで汚れを除去するという仕組みが一般的です。1分間に1万回以上は当たり前、3万回という超高速振動をするものもあり、その進化は止まりません。
ただ、歯磨きでもっとも重要なことの一つはプラーク(歯垢)がしっかり除去できるかどうかですが、粘着性のあるプラークはそう簡単には落ちず、一箇所につき歯ブラシの毛先で最低でも20回程度当たる必要があると言われています。そのため手磨きでは約5秒を要するところ、電動歯ブラシでは1秒もかからず、腕も疲れず効率もよいというので人気も高いのではないでしょうか。ただ、どんなに優れた商品も使い方次第といえ、高性能の電動歯ブラシを使っているから大丈夫と思っていても、歯科検診で磨き残しを指摘されたり、歯周病が進行していたりするケースがあるので過信は禁物です。
電動歯ブラシの注意点として、日本歯周病学会では「電動歯ブラシだけでお口の中を隅々まで磨くのは難しく、長期に使用することにより歯が余分に磨り減ってしまう可能性」を指摘しています。
歯周病で弱っている歯肉に、電動歯ブラシの高速振動ブラシを力任せに当ててしまって歯肉を傷つけたり、ゴシゴシ磨いたり、長時間ブラッシングしたりしていると、歯のエナメル質が磨り減ってしまいます。そのため、同学会でも「まずは微妙な力や動かし方のコントロールができる、普通の歯ブラシ」を薦めています。
電動歯ブラシのメリットも享受しつつ、オーラルケアもしっかりしたいという方にはワンタフトブラシの併用がお薦めです。ブラシの先が尖った円錐状の手磨き用のブラシで、電動歯ブラシの磨き残し対策用にとても役に立ちます。歯ブラシが届きにくい奥歯や歯と歯の間、歯と歯肉の境目などもこの尖ったブラシの先を当ててやさしくブラッシングすることでプラークをしっかりと除去することができます。掃除機でいえば、隙間ノズルのような感覚で狭い部分、届きにくいところもピンポイントでクリーンニングすることができます。
電動歯ブラシは腕や握力などに衰えのある方でも楽に歯ブラシができるというメリットもあります。適材適所でそれぞれのメリットを生かしながら、ご自宅での日々のセルフケアをしっかりと実践していただければと思います。
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