歯を失う2大原因といわれるのはむし歯、歯周病であることは皆さんもご存知だと思います。ただ、むし歯もなく、歯周病の予防もしっかりされているという方でも、思わぬことから歯を失ってしまうことがあります。それは歯が割れたり、折れたり、あるいは歯根にひびが入ってしまうことが原因となります。このようにクラックを生じた歯を破折歯といいます。
ちなみに日本では歯を失う原因の3番目が、破折となり全体の11%です。スェーデンでは破折歯による抜歯がダントツの1位(62%)となっています。予防歯科が進み、むし歯や歯周病で歯を失うことはまれなため、破折歯が1位に押し上げられているといえます。
硬い歯になぜびびが?と思うかもしれませんが、意外にも身近に歯がもろくなってしまう原因があるのです。
“神経を抜く”という治療を受けたことがある方も多いと思います。歯内療法(歯根治療)といいますが、むし歯が進行して歯の深部までおかされてしまった場合には歯の中心部を通る歯髄(この部位が一般的に神経と呼ばれている)という組織を取り除き、むし歯の進行を食い止める治療です。治療をした歯根に土台を立ててかぶせ物をすることで再び噛めるようになりますが、歯髄を取り除いてしまうと、歯に栄養や水分などを送ることができないため、いわば“枯れ枝”のような状態になります。枯れ枝が折れやすいように、歯髄を除去した歯は破折しやすいといえます。
破折歯は抜歯の対象となるため、通常は抜歯をしてブリッジや義歯、インプラント治療が適応されますが、最近は抜歯を回避する新たな治療法が開発されています。生体親和性の高い(人体に害のない)接着剤によって接着する方法がそれで、接着剤の進歩などにより可能になっています。この治療法はひびの部分に接着剤を流し込み、修復をするという方法です。また、破折の度合いが大きい場合は破折歯を抜歯していったん取り出し、歯を接着してから口腔内に戻すという再移植という方法もあります。
今後はその成功率をいかに高めていくか等課題もありますが、初期の段階であれば温存できる可能性は大きいといえます。破折してから時間が経てば経つほど治療が難しくなるので、早期発見早期治療が重要です。
歯根にひびが入るとひびの部分から細菌が入って歯の歯ぐきが腫れたり、痛みがでて歯科医を受診しレントゲンを撮って初めてわかるケースも少なくありません。ただ、割れはじめは微細なため、自覚症状はもちろん、CTなどでもわかりにくいことがままあります。虫歯や歯周病と歯根破折を併発していることもあるため、定期健診により専門医によるチェックを受けておくことがなにより大事だといえます。
年の瀬ともなるとなにかと気ぜわしい時期ですが、お口の中のケアも忘れずに行いたいものです。家の中の大掃除と同様、お口の中も普段から汚れをためず、こまめにお掃除をしておことが肝心です。普段の歯ブラシの習慣こそが歯周病、むし歯予防の第一歩ということで、年の締めくくりに今一度、見直してみましょう。
食べたらすぐ磨くのがいいのか、それとも時間をおくのがいいのかということは悩ましいところですが、一般的には口の中に残っている糖質を早く取り除くという意味で食べたらすぐに磨くことをお勧めします。細菌は糖質を分解して酸を発生させ、その酸によって歯のエナメル質が溶け出します。ですから、そのもとになる糖質をできるだけ口の中に残しておかないという意味ですぐに磨くことが推奨されます。
細かいことですが、磨く前になにげなく歯ブラシを水で濡らしているという方が多いと思うのですが、これは意外にもNGです。水で塗らすことですぐに口の中に泡が広がり、十分ブラッシングをした気分になってしまうからです。実際に磨く時間も短くなるという調査結果も出ており、磨き残しの原因となるため、濡らさずに磨くことをお勧めします。
そのほかの歯磨きの際のNGとしては、磨いたあとすすぎ過ぎないということがあります。フッ素の配合された歯磨き粉の場合はとくにフッ素の効果まで洗い流してしまうためで、10cc程度の水で十分といわれています。
歯ブラシの交換時期についても1日3回磨く方であれば、1か月使えばほぼ交換時期となります。清潔さを保つことと、汚れを落とすという機能性を維持するためで、歯ブラシの毛先が広がってきた時にはすでに交換時期とお考えてください。毛先が広がりやすいという方は力を入れ過ぎている可能性があります。ペンを持つ握りで歯ブラシを支えて、軽い力で小刻みに磨きます。
磨き残しをなくすという意味では、歯ブラシだけでは歯の間など磨きにくいところがあるため、デンタルフロスや歯間ブラシの出番となります。歯の隙間の幅に応じてデンタルフロスや歯間ブラシを使い分けてお掃除します。歯間の清掃効果として歯ブラシだけだと60%弱のプラークしかとれませんが、歯間ブラシやデンタルフロスを使えば90%以上の汚れが除去できます。それでも100%は除去できないので、歯科医院での定期健診、定期クリーニングが必要になるのです。お口の中の大掃除のようなものといえますが、お口の中は年に1回では間に合わず、3か月に1回のペースが目安です。
このようにして歯についたプラークをすみずみまで除去することで、むし歯や歯周病を未然に防ぎお口の中の健康を将来にわたって維持していくことにつながります。
年末年始は歯科医院もお休みとなりますのでお口の中のトラブルがある方は早めに対処しておきましょう。
歯科医院とはふだんどうようなお付き合いをされているのか、その現状がよくわかるタイムリーな調査が発表されました。日本歯科医師会が実施している「歯科医療に関する一般生活者意識調査」で、全国の15〜79歳男女1万人を対象に 2018 年4月に行われ、11月8日の 「いい歯の日」に発表されました。2005 年からほぼ隔年で実施されており、今年は「歯の治療の先延ばし意識と実態」と「歯の治療に対する後悔」について焦点を当てています。
「先延ばし派」とはどちらかというと先延ばしする、あるいはギリギリまで対応しないという傾向をいい、 一方の「対応派」は気になり始めたらすぐに対応する、あるいはどちらかというと先に片付けておきたいという傾向が当てはまります。
この調査で最も驚かされたのは歯科受診・検診について、先延ばし派が52.7%と対応派(47.3%)を上回ったことです。日常生活での行動全般では対応派が73.4%、健診や人間ドックなどの健康管理でも52.7%と対応派の方が多いのにも関わらず、歯科受診・健診となるとつい足が重くなってしまう人がまだまだ半数以上いらっしゃることがわかります。
先延ばし派の割合が最も多い世代は意外にも20代(60.5%)で、その20代の先延ばし派の悩みは上位から「歯の色が気になる」「歯並びが気になる」「歯と歯の間にものがはさまる」「口臭がある」「歯が痛んだり、しみたりする」「歯石がたまっている」「歯ぐきから血がでたり、歯がぐらぐらする」等があげられています。確かに対応派の半数以上が口腔内の状態について「健康だと思う」のに対して、先延ばし派は「健康だと思わない」という回答が63.2%というのもうなづけます。
歯の治療に対する後悔については4人に3人(75.7%)が「もっと早くから歯の健診や治療をしておけばよかった」という気持ちを抱いており、これに関しては先延ばし派( 76.0%)も対応派(75.3%)それほど違いはありません。ただ、高齢になるに連れてその後悔度は先延ばし派で高まります。男女別では女性の方が後悔の割合が高く、これは見た目との関係が大きいためでしょう。口元の美しさはアンチエイジングにも直結しており、50代後半が後悔のピークになっていることからもそれがうかがえます。
先延ばしにしたツケは年齢とともにさまざまなトラブルとなって噴出してくるといえます。“後悔先に立たず”といいますが、口腔内の健康についてもすぐに対応する派に軍配が挙がると言わざるを得ません。後手後手に回るとそれだけ余計にお金も時間も費やされ、歯を失うリスクまで高くなるからです。
これ以上後悔しないためにも、定期健診がまだの方は予約の電話を入れることお薦めします。定期健診で普段の悩みなどいろいろ相談されることで歯科医院との距離感が一気に縮まること請け合いです。
スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋と秋はなにをするにもよい季節です。最近は“読書よりはスマホ”という人が多のかもしれません。こうした読書など趣味の世界に没頭するときにじつは気をつけていただきたいポイントがあります。
そのポイントに関連しての質問ですが、上下の歯が噛み合っている時間は1日にどれくらいだと思いますか? つねに噛み合っているのではと思う方もあるかもしれません。確かに食事中、あるいは会話の間は上下の歯は噛み合います。しかし、それ以外では歯は触れ合うことはなく、ふだんは上下の歯の間は2〜3㎜、離れているのが本来の姿です。質問の答えは約17分です。とても短いことに驚かれる方も多いと思います。
しかし、なんらかの理由で必要のないときに歯が触れ合ったり、噛みしめていたりしてそれが癖になっている場合があります。こうした癖を「歯列接触癖」(TCH=Tooth Contacting Habit)といいます。就寝中の歯ぎしりとは区別され、「弱い噛み締めを長時間行う癖」のことをいいます。
歯列接触癖がなぜ問題になるかというと上下の歯が触れ合うだけでも咀嚼筋や顔面筋、顎関節が刺激を受けて緊張を強いられ、それが長時間、毎日続くことで筋肉に疲労が生じてしまうためです。弱い力ですが歯や歯を支えている組織(歯肉、歯槽骨、歯根膜など)に負担を与え、歯にヒビが入ったり、歯周病の悪化や知覚過敏の原因になったりします。そのほか、咀嚼時の慢性的な痛みや口が開かないなど顎関節症の症状や肩こり、頭痛などを招くおそれあります。
こうした接触癖は無意識に行ってしまうため、本人に聞いても自覚がないことが特徴です。そのため接触癖の有無は舌の側面や先端にギザギザした歯の噛み跡があるかどうかを確認します。噛み締めが長時間に及ぶことで舌に跡が残るのです。これを「舌圧痕」といいます。また、頬に内側の粘膜にやや突起した白い筋が出ることもあります。
歯の接触が起こりやすいのは「緊張する場面」「集中して作業を続けている時」「長時間うつむきがちな姿勢を続けている時」などが代表的な例です。家事や車の運転のほかパソコンやテレビゲーム、勉強中などに多いといわれています。うつむく姿勢がよくないのは下を向くと上下の歯の隙間が狭くなり、接触しやすくなるためです。
もし、こうした接触癖があると気づいたら生活改善をすることによって軽減することができます。日頃の噛み締め癖を意識することが第1なので、「歯を離す」「力まない」などと書いた張り紙を目につくところに貼って、意識的に力を抜くようにします。とくに携帯電話は長時間に見続けないようにしたいものです。最終的には歯が接触したら条件反射的に歯を離す癖づけを行います。
なかなか改善しない場合や顎関節に痛みがある場合は噛み合わせや歯列などに問題がある場合もあるので、一度、歯科医に相談されることをお勧めします。
このところ日本列島は大型台風や地震により立て続けに大きな災害に見舞われ、各地にその爪あとが残されています。避難生活を余儀なくされている方々や休みを返上して対応されている方々もまだまだ多いことと思います。1日も早く平穏な日常が戻られるように願うばかりです。
大規模災害では被災された方々の避難所生活が長引き、衛生面での問題が出てくる場合があります。とくに問題になってくるのは口腔ケアについてです。
避難所の生活では物資が不足している間は食事の回数が減ったり、不規則になったりします。そのほかストレスなどにより唾液の分泌量が減り、唾液による自浄作用が低下するということが起きてきます。
また、避難所には支援物資としてお菓子や飲み物が身近に置かれることも多く、お子さんなどはどうしても間食が多くなり、虫歯菌のえさとなる糖質が長時間口の中に止まる状態になります。そこに歯磨きが十分にできないといった環境因子も加わり、むし歯が多発しやすい状況下にあるということは否めません。
また、口腔内が清潔に保てないと歯周病が悪化しやすく、糖尿病をはじめ全身の病気に悪影響を及ぼす可能性があります。血糖値のコントロールのためにも歯周病予防に心がけることが重要です。
高齢者の場合は入れ歯の洗浄が不十分になるなど口腔内の汚れによって誤嚥性肺炎になる可能性を高めるので十分に注意を払う必要があります。阪神淡路大震災では、震災に関連した肺炎で亡くなった方が200人以上おられますが、その中には誤嚥性肺炎も多かったのではないかと推測されています。肺炎もそうですが、インフルエンザ予防にも口腔ケアは効果的です。
避難先でのオーラルケア(口腔ケア)の方法は、水が不足している場合は食後にお茶や飲み水を少量ずつ口に含んでうがいをします。ハンカチや柔らかい布があれば、食後に歯の表面をぬぐって汚れを落としてお茶やお水で口をゆすぎます。
歯ブラシがあれば、1回分約30ccの水を用意し水をつけてブラッシングします。歯ブラシに汚れがついたら、ティッシュなどで拭き取りながら、ブラッシングをして、3回くらいにわけて口をゆすぎます。
液体ハミガキや洗口液が入手できた場合は水のかわりに使うと口腔内を清潔に保つのに役立ちます。液体歯磨きは練ハミガキの代わりとして使え、口に含んですすいだ後にブラッシングします。殺菌成分により口腔内の雑菌を減らすことができます。どちらも使用後に水ですすぐ必要はありません。
唾液が出にくくなった場合はシュガーレスガムを噛んだり、耳の下や頬、あごの下を手でもんだり、温めたりして唾液の分泌を促すとよいでしょう。
こうした難先での口腔ケアの重要性を念頭において、防災リュックには歯ブラシ、コップのほか歯間ブラシ、デンタルフロス、うがい用薬液(マウスウォッシュ等)、歯磨きガム(シュガーレスガム等)、入れ歯などを使用している方は保管ケースや入れ歯洗浄剤などをいれておくとよいでしょう。お口の中の健康に予防歯科が欠かせないのと同様に、万が一の場合を想定して災害時も普段の備えが肝心だといえます。
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