現代人の歯並びの乱れの原因は?

1万年以上前のある出来事が原因だった
歯並びの乱れや不正咬合(噛み合わせの悪さ)は多くの現代人が抱える健康問題の一つとされています。そのため、歯列矯正やあごの手術を受ける人も増えていて、審美的な観点からも美しい歯並びを求める傾向が高まっています。
ただ、人類は最初から歯並びが悪かったわけではなく、古代の人々においては硬い食べ物をよく噛んで食べることが日常的であったためにあごが発達し、歯並びも比較的整っていました。しかし、約1万2000年前に状況が一変します。人類が農耕を始めたことがきっかけでした。それまでの狩猟生活から穀物などの農作物が食事の中心になることで加工された柔らかい食べ物が増えて咀嚼する必要性がはるかに低くなったのです。その結果、あごへの刺激が減少し世代を重ねるごとに下あごが小さくなる一方、歯の本数は変わらないため、歯が並びきらず、重なったり埋まったりする不正咬合が増加したというわけです。この傾向は特に産業革命以降、より顕著になりました。
遺伝や環境的要因なども複雑に関係
ただ最近、米スタンフォード大学のチームの研究では「ここ数世紀の人間のあごの変化は、進化によるものとしてはあまりに速すぎる」とし、単に食事や生活習慣だけでなく、遺伝的要因や成長過程での異常、さらには環境的要因なども複雑に関係していると指摘しています。実際に初期人類の化石の中にも歯の埋伏や不正咬合の例が確認されているとのことです。また、上または下の前歯が極端に前に突出する不正咬合は集団の遺伝的要因によるもので産業化とは無関係という例もあります。
結論としては不正咬合はそれほど単純な話ではなく進化、遺伝、現代のライフスタイルが複雑に絡み合って生じているといえそうです。
人類が農耕を始め、それまでの硬い肉や繊維質の野菜から、穀物などの柔らかく加工された食品に移行した1万年以上前の出来事が、現代人の歯並びの乱れにつながっているということは確かですが、かといって今から狩猟民に戻ることもできません。現代においてはデンタルIQ(歯に関する知識や口腔衛生に関する認識レベル)を高めつつ、歯ごたえのあるものをよく噛んで食べるという咀嚼筋を衰えさせない食生活を意識して歯と歯肉の健康維持に務めたいものです。

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